こんにちは。川崎市溝の口の「溝の口テラス法律事務所」の代表弁護士、小川豊です。
今回は、離婚調停の難しさをテーマにしてお話をしていきます。
「離婚調停のほうが訴訟よりはまだ簡単に進みそう」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、一概に「離婚調停は離婚訴訟より簡単」とは言えないのです。
離婚調停は「訴訟に比べてケースごとに打ち手が多岐にわたり、経験値の差によって結果が大きく左右される難しい手続きである」ということをお伝えしたいと思います。
離婚調停は訴訟より簡単?
離婚調停は、語感や主として話し合いで手続きが進むという性質から訴訟に比べると簡単に見えるかもしれません。
しかし、私は、離婚訴訟はもちろん他の訴訟と比べても、【離婚調停】が簡単と思ったことはありません。
私は、建築事件での数千万円もの請求を請求額の20%台の金額にまで減らして解決したことがありました。
この事件は、重ねると私の背丈に迫る厚さになる大量の建築資料を検討しなければならないうえ、法的な問題点も複雑で裁判官が争点を整理するためだけに数か月の期間を費やすなど非常に複雑な事件でした。
また相続人間の対立が激しく10年近く争い続けていた相続事件を途中で引き継いで終結させたり、交通事故を中心に扱っている先輩弁護士に「もう増額は出来ないよ」と助言された交通事故事件の損害賠償額を粘り強く交渉して大幅に増額させたこともありました。
上記は弁護士から見ても難しい事件を解決してきた例なのですが、これらの背丈ほどのボリュームの建築資料を読みとく事件や、10年来続いた相続事件に比べても、安易に「離婚調停は簡単」とはとても言えないのです。
写真撮影と離婚調停
むしろ離婚調停は他の裁判に比べ、携わる弁護士によって大きな差が出るとすら思っています。
その理由を、プロのカメラマンからお聞きした話と対比しながらご説明してみようと思います。
良い写真を撮るためには、知識、技術、経験値が必須
【ホームページや広告の写真は必ずプロのカメラマンに撮ってもらうこと】
これは弁護士のような他の業界に比べてまだまだプロモーションに疎い業界でも今や常識になりつつあります。
私も、その常識を聞き知っていたため写真撮影はプロのカメラマンにご依頼しました。
そしてその時、プロに依頼すべき理由がよく分かるお話を聞かせてもらいました。
担当してくださったカメラマンは、色々な機材を取り出し、同じ被写体であっても条件次第で、大きく印象が変わってしまうことを教えてくれました。
たとえば、同じ部屋でも壁に近いか遠いかにより、背景の色味が微妙に変わってしまい、背景が寒色に近いと冷たい印象になってしまうというのです。さらに草むらなどでは、草の色が反射してしまい顔が緑がかってしまう、笑っている顔もごくわずかな笑い方や撮影の角度の違いによって、優しく見えもすれば、何かよからぬことを企んでいるように見えてしまうこともあるのだと教えてくれました。
そして、合計100万円以上するというピカピカの撮影機材を「これは光を調整する機材で、これは…」と嬉しそうに解説してくれました。
写真を撮ること自体はシャッターのボタンを押すだけで誰にもできます。
しかし、その写真の出来は、光の当たり方、撮影場所、被写体の表情や角度、カメラ等の機材の使い方や性能、そのほか様々な条件のわずかな違いで大きく変わってしまうのだと思います。
プロのカメラマンは、それら一つ一つについて知識と技術を身に着け、撮影の現場で柔軟に実践できるからこそ良い写真が撮れるのだと思いました。
離婚調停の難しさ
これは離婚調停も同じです。
調停に出席し話をして合意をすること自体は誰にでもできます。
しかし、自身の希望を十分に反映した合意をするには、単に調停で発言するだけでなく、また法律の知識があれば良いだけでもなく、法律の知識を応用し、調停委員や相手を説得しなければいけません。
たとえば、争いのある点について、自身の希望を通したい場合、自身に有利な判例や文献を調査し、これを引用して主張しなければいけません。
ここで、調停委員は有識者ではあってもプロの法律家ではなく、裁判官と違い複雑な法律の議論や長文に慣れていないことが普通です。
そこで私の場合、調停で提出する主張書面は、裁判官が主催する訴訟に比べ、平易な文章で分量を減らして書くなど、調停委員が理解しやすいよう様々な工夫をして執筆します。
また、議論が迷路に入り込まないように、常にどの点が問題になっているか、どのようにしたら解決できるかを確認しながら、調停委員の熟練度に応じて説明の細かさや力点を変えながら主張をします。
さらに、法的には難しい要求であっても、交換条件にできる他の条件との適切なバーターを提案して認めさせたり(※1)、早期解決や円満解決のメリットを相手に理解できるよう丁寧に説明して譲歩を引き出し認めさせることもあります。
一方で、法的に認められる要求であっても、その議論をすることによって、こちらが失うものが大きいなら全体の戦況を見て、あえて退くこともします。
プロのカメラマンが様々な条件を考慮し整えて最高の瞬間でシャッターを切るのと同じように、弁護士もまたご依頼者様のご希望にかなう合意をするため、法律論はもちろん、こちらに書ききれないほどの試行錯誤を重ねて編み出した方法論を武器に調停に臨んでいるのです。
そして、これらの判断は、司法試験に合格した後、徹底的に家事事件の書籍を読み漁り、家事事件に精通した弁護士に師事して調停でのいろはを叩き込まれながら多数の離婚調停を解決し、今なお学び続けている自分だからできることです。
この泥臭さがあってこそ、ご依頼者様のご満足を頂けるのだと自負しています。
新しいスタートのために
「良い条件が重なれば私でも良い写真を撮れますか?」
そう聞くと、カメラマンは「できます」と答えた後、「でもプロに頼めばもっと良いものができますよ」と頼もしく笑いました。
写真であれば、試しに家族や友人に撮ってもらい良いものができればそれを使っても良いですし、やはり上手くいかなければ、その後にプロに頼んでも良いかもしれません。
しかし調停は、一たび手続きが進行してしまうとやり直しが容易ではありません。
ご自身で調停に挑まれた方の中には「どんどん進んで終わってしまった。正直納得できていない」、「調停委員に説得され合意したが、後から聞いた弁護士の意見と違うように思う」などのご感想を持たれている方もおられました。
一見するとただの話し合いに見える調停は、相容れない要求を抱える相手方との難解な法的知識を用いた交渉の場であり、何らの準備もなく臨むことは、裸で敵地に赴くようなものだと私は思います。
人生で何度もない調停ですから、ぜひ一度弁護士に相談して、一人でたたかえる調停なのか、プロと一緒にたたかっていくべきかを決めください。
そして、新しいスタートのための一歩を踏み出していただきたいと願っています。 長文をお読みいただきありがとうございました。
※1 たとえば財産分与や養育費の条件を面会交流の条件と交換条件にするなどの交渉方法は原則としてすべきではありません(夫婦の財産の清算や子の生活のための養育費の条件と、子の健全な成長のために行われる面会交流の条件は全く別の検討事項だからです。)。また調停の流れによっては特殊な交渉方法を取ったことで状況が悪化することがあり得ます。どのような交渉方法が適切であるかは必ず弁護士にご確認ください。
※2 本記事は執筆時点の法律・実務運用等に基づいて作成しております。
- これって弁護士に頼んだほうがいいのかな?
- 相談していいレベルなのかどうかわからない
- どうしたらいいかアドバイスがほしい
このようにお悩みの方も、まずは溝の口テラス法律事務所へお気軽にお問い合わせください。
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