こんなことで無効になる!?遺言書や遺言書の訂正が無効になる原因を弁護士が解説

弁護士 おがわ

こんにちは。武蔵小杉、たまプラーザ、二子玉川からほど近い溝の口テラス法律事務所の代表弁護士、小川です。

遺言は、「自分が亡くなった後の財産を誰にどのように遺すのか」を意思表示する家族や大切な人へのあなたの贈り物であると同時に、あなたの最期のメッセージを届けることができるツールでもあります。

しかし、その形式には厳格なルールがあり、一見些細なミスでも全体が無効とされてしまうことがあります。

「せっかく準備した大切な遺言書が、ほんの僅かな不備で無効になるのは避けたい」
「法律のルールが難しくて、自分ひとりで遺言書を書くのが不安」
「弁護士に相談するタイミングがわからない」

そんな思いを抱えている方も少なくないかもしれません。

そこで今回は、実際に無効になり得るパターンとして代表的な事例を取り上げ、詳しく解説してまいります。

もし遺言作成に不安を感じられたら、ぜひ最後まで目を通していただき、気になることがあれば、いつでも私たち溝の口テラス法律事務所にご相談ください。

目次

共同遺言が無効となる理由

遺言書を作成する際、多くの方が見落としがちな重要なポイントがあります。

弁護士 おがわ

それは、遺言は必ず個人単位で作成しなければならないということです。

遺言は遺言者が単独で行う意思表示であるため、夫婦や親子など複数の人が同一の書面に連名で遺言を記す「共同遺言」は認められていません。

多くの方が「家族だから一緒に書けばいいのでは?」と考えがちですが、実はこれが、遺言が無効となってしまう代表的なケースです。

共同遺言とはなにか

共同遺言とは、2人以上の人が1つの遺言書に遺言を記載することを指します。

たとえば、夫婦で「先に死亡した者が他方に全財産を相続させる」という文言を一つの用紙に書き込むようなケースです。

家族同士、特に仲の良い夫婦の場合、「どうせお互いに遺すつもりなのだから、一緒に一通で作ったほうがラクだし分かりやすいのでは?」という発想になることは自然と思います。

ですが、日本の法律、具体的には民法975条で「二人以上の者が同一の証書で遺言をすること」は禁止されているため、共同遺言は無効となってしまいます。

共同遺言が無効となる趣旨、根拠条文

民法975条には、はっきりと「遺言は、二人以上の者が同一の証書でこれをすることができない」と定められています。これは、日本の相続法制が「遺言はあくまでも遺言者の自由な意思表示」という原則を重視しているからです。

共同遺言を認めてしまうと、たとえば夫と妻が連名の遺言を作成したあと、片方が気が変わったり、内容を変えたいと思ったときに、もう一方が同意しない限り自由に変更ができなくなる可能性が生じます。

遺言の真髄は「遺言者個人の最終意思を尊重する」という点にあるため、共同遺言を認めてしまうと、個々人が遺言を自由に撤回・変更する権利が大きく制限される懸念が出てくるのです。

加えて、遺言者の一人に無効原因がある場合、遺言の効力に関して複雑な問題が生じる可能性があることも、共同遺言が禁止される一つの理由です。

まとめ

「夫婦仲が良く、私たちはお互いに理解しているから一緒に作成したい」と思えることはとても素晴らしいことです。

しかし、そんな素敵な理由で作成した遺言書を無効とされてしまうのは本当に残念なことです。

遺言はあくまで一人ひとりが別の書面で、単独で作成する必要があるという点を、まずは押さえておきましょう。

年月日吉日の遺言書が無効になる理由

「○年○月○日」という形式で書かず、たとえば「令和○年○月吉日」や「大安吉日」など、縁起のよい表現に置き換える方も時々おられます。

結婚式の招待状などで使う表現に慣れていると、「吉日であれば失礼ではないし、いいのでは」と思われるかもしれません。

しかし、遺言書の作成日は法的に非常に重要な要素で、単に「吉日」との記載では特定の日付を書いたことにならず、認められません。

複数の遺言書が存在する場合の新旧の判断や、遺言者の遺言能力に疑義がある場合に、遺言が遺言者の正常な意思で書かれたのかを確認する上でも、正確な「○年○月○日」という日付の記載が必須となります。

「吉日」との表記は縁起が良く、○年○月まで特定されていれば問題ないようにも思えてしまいますが、法的には無効になってしまう危険が大きいのです。

遺言に年月日を入れることの根拠条文

「遺言書を作成した年月日の記載」について詳しく見ていきます。自筆証書遺言(※1)の場合、民法968条1項で「全文・日付・氏名を自書し、押印をする」という形式が定められています。

この「日付」に関しては、法律上明確に「いつ作成されたかを特定できること」が必須とされています。

※1 自筆証書遺言とは、いくつかある遺言の形式のうち、遺言者本人が遺言書の全文を手書きで書き、そこに日付と氏名を自書で記入し、最後に押印をするという形式の遺言です。

なぜ日付が重要かというと、

1. その遺言が「いつ作成されたのか」がわからないと、遺言が複数あった場合「どれが最新のものか(どれが撤回されているのか)」を判断できない

2. その遺言が「いつ作成されたのか」がわからないと、本当に遺言能力がある遺言者が作成したか判断できない場合がある(たとえば、遺言者が認知症を患っておられた場合、遺言が病気の進行前に作られたものか、それとも進行して遺言能力を失ってから作られたものかは、遺言の内容に疑義を持つ相続人にとって、とても重要な関心事ですので、遺言の作成日付を明らかにする必要がある)

といった理由があるからです。

まとめ

せっかくの遺言ですから、単純な形式の不備で無効とされるのは避けたいものです。

「○年○月○日」と正確に日付を書くことは難しくありません。心を込めた文章こそ、最後まで法律のルールを満たすように気を配りましょう。

遺言書の訂正の方法で無効になる理由

遺言書の訂正には特別なルールがあり、一般的な文書の修正方法とは大きく異なります。

修正液や修正テープの使用は避け、二重線を引いた上で訂正内容を明記し、さらに署名と変更の場所に押印まで行う必要があります。

弁護士 おがわ

これらの手続きを誤ると、訂正部分が無効になり、訂正前の内容の遺言とされてしまいかねません。

訂正の方法の根拠条文

遺言の訂正には、法律が定めたルールがあります。民法968条3項などは、自筆証書遺言を訂正するときのルールを以下のように定めています。

STEP

訂正したい箇所に二重線を引くなどして、どこを訂正しているのかを明らかにする。

STEP

訂正の場所に応じて、明確に「この部分を〇〇のとおり訂正する」といった趣旨の付記を行う。

STEP

その付記の部分に遺言者自身の署名をし、さらに訂正箇所に押印をする。

つまり、ただ二重線で消して書き直すだけではダメで、「どこを、どのように誰が訂正したのか」ということを署名押印までして明確に示す必要があるのです。

訂正が無効となる実例

修正液や修正テープを使う

文字そのものを白く消してしまうため、元々何が書かれていたのか分からなくなります。これでは法律が求める訂正方法を満たすことができていません。

二重線を引いたが、署名や押印をしていない

単に線を引いただけでは、誰が訂正したのか証明できません。

後から第三者が勝手に消したのかもしれない、と疑われても仕方がない状態です。これでは、訂正方法に関する要件を満たしていないため無効となる可能性が高いでしょう。

余白に書き足したが、やはり署名や押印がない

追加したい文言を余白にサラッと書き足し、署名や押印をしていないケースもあるようですが、これもルールを満たしていません。

誤字脱字程度ならまだしも、財産の分配の内容など核心部分に関する訂正が不十分な場合には、後から大きなトラブルへ発展しかねません。

まとめ

遺言書は通常の書類と違い、その効力が生じた後、その内容に疑問が生じても、遺言者に真意を確認できません。

そこで、厳格な手続きによって遺言者が真意に基づいて訂正したことを示す必要があります。

「こんな細かいところまで気をつけないといけないの?」と思われるかもしれませんが、遺言のトラブルを回避するためにも大切なポイントです。

弁護士 おがわ

訂正箇所が多かったり、訂正がうまくいかなかったら心配と感じる場合は、新たに遺言書を作り直すことを検討してもいいかもしれませんね。

遺言書が無効になりやすい事例

ここまで、遺言作成で代表的に「こんなことで無効になっちゃうの?」という例を見てきました。ですが、実際にはこれ以外にも、様々な要因で遺言書が無効となり得ます。

内容があいまいで、誰に何を遺すのか判別できない

たとえば、㋐長男が、㋑長男の奥さん、㋒長男と奥さんの間の実子、㋓養子縁組をしていない奥さんの連れ子さんと一緒に暮らしている状況で、長男のお父さんが「自分の財産を長男の家族へ分ける」などと漠然と書いた場合、「長男の家族」に㋓連れ子さんを含むのか、一体誰にどれだけの割合で財産を分けるのかが明らかではなく、、その解釈をめぐって争いが生じるリスクがあります。

良かれと思ってした遺言が、かえって長男の家族仲を悪くしてしまうことすらあるのです。

公序良俗に反する極端な条件が付されている

もちろんケースバイケースではありますが、例えば、妻と幼い子供がいながら、不倫関係にある者との関係を継続するために同人に全財産を遺贈するなど、社会通念上著しく相当性を欠くといえる遺言の場合には、公序良俗違反として無効になる可能性があります。

遺言能力が欠如している(遺言者の方が認知症などを患われている場合)

遺言者が十分な判断能力を欠く状態で遺言を作成した場合、そもそも「真意に基づいた意思表示」とは認められず、無効となるリスクがあります。

仮に、一見して作成日や内容に問題がなくても、「遺言者は当時、本当に内容を理解して書いていたのか」との疑いを持たれ、裁判などで争われるケースも少なくないのです。

遺言が無効になるとどうなるか

せっかく思いを込めて書いても、遺言が無効となると、法定相続のルールに従って財産が分配される可能性が高くなります。

遺言に従った相続ができないため、遺されたご家族間で話し合い(遺産分割協議)が必要となることが多いでしょう。

ご自身が考えていた財産の分配の意図がまったく反映されない上に、相続人同士の争いが長期化する危険も高まります。

これは、遺言者の思いとも反しますし、遺された方々にとっても大きな負担です。当然、長期化する遺産分割協議の中で、相続人同士の仲が悪くなってしまうこともままあるのです。

遺言書作成を弁護士に依頼するメリット

こうした無効のリスクを回避し、確実にあなたの思いを遺すためには、専門知識をもつ弁護士に相談することが近道です。弁護士に依頼することで、次のようなメリットが期待できます。

法的に有効な遺言になるようアドバイスを受けられる

日付の書き方や署名押印の方法、共同遺言の禁止など、上記以外にも数多くあるルールを漏れなく押さえた無効になる心配のない遺言を作ってくれます。

将来の紛争予防策を講じてもらえる

相続に注力している弁護士であれば、「この書き方ではあいまいなので、トラブルの原因になりそうだ」、「この内容だと相続人が揉める可能性がある」といった予測を瞬時に立てて、トラブルを未然に防ぐ工夫を提案してくれます。

必要書類の収集や証人手配など、手続きを一括でサポートしてもらえる

公正証書遺言を作成する場合に必要な公証人とのやりとりや書類の準備は、多くの方にとって負担が大きいものです。弁護士が間に入ることで、スムーズに進めることができます。

遺言は「未来へのメッセージ」

遺言は、単なる「遺産分配の指示書」ではありません。

遺言は、大切な方々に対する”最後のメッセージ”であり、感謝の気持ちや、これからの人生への希望を込めて書くものです。だからこそ、形式面の不備で、無効となり、あなたの大切な方々への思いを実現できないのは、とても勿体ないことです。

まとめ

ここまで「共同遺言の禁止」、「日付の書き方(吉日の扱い)」、「訂正の方法」を中心に遺言を作成するうえで気をつけるべきポイントを中心にお話をしてきました。

どれも決して難しいものではない反面、ちょっとした油断や勘違いでせっかくの遺言書が無効になる危険をはらんでいます。

もう一度まとめますと

  • 共同遺言は、民法975条で明確に禁止されており、たとえ夫婦や家族であっても一枚の紙に連名で遺言を書くことは無効になる可能性が高い。
  • 遺言の日付は「○年○月○日」と正確に記載する必要があり、「○年○月吉日」との記載では作成日が特定できずに無効になりかねない。
  • 訂正は修正液や修正テープを安易に使えず、二重線・付記・署名押印など法律で定められた方法を踏まえなければ訂正が無効になるリスクがある。

それ以外にも、内容が不明確であったり、公序良俗に反するといった理由で無効になる場合や、遺言能力の問題など多くの注意点があります。

もし、「なんだか難しそうだし、大切な人たちへの最期の思いを込めた遺言を失敗したくない」、「自分の思いを確実に実現したい」というお気持ちがあれば、どうぞ早めに私たち溝の口テラス法律事務所にご相談ください。

「弁護士に依頼するのは敷居が高い」と感じられる方もおられるかもしれません。しかし、弁護士のサポートを受けずに作った遺言が、相続後の大きな争いを招いてしまった実例を私たちは沢山見てきました。

私たち溝の口テラス法律事務所は、ご相談者さまが遺言作成を思い立った背景まで丁寧におうかがいし、争いを招かない法的に有効な、そして、あなたの思いをかたちにする遺言書の作成をサポートいたします。

弁護士 おがわ

もし少しでもご不安があれば、ぜひお問い合わせください。

私たちは、いつでも、あなたのご相談をお待ちしています。

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