AIに書面を作らせて調停・裁判をしても大丈夫?弁護士が相手方として見た現実

AIで作った書面で裁判・調停に臨む危険性を弁護士が解説
弁護士 おがわ

こんにちは。武蔵小杉、たまプラーザ、二子玉川からほど近い溝の口テラス法律事務所の代表弁護士、小川です。

「弁護士費用は高いし、AIに書面を作ってもらえば自分で調停できるのでは?」
「AIが作ってくれた主張書面、このまま裁判所に出して大丈夫?」

そんなふうに考えたことはありませんか?

最近、弁護士に依頼せず、AIで書類を作って裁判に臨む方をお見掛けするようになりました。

AIはとても便利な道具ですが、使い方を誤れば自分を傷つけることもある、いわば諸刃の剣です。

今日は、弁護士の代わりにAIを頼った裁判、特に調停をすることで本当に成果が得られるかをお話ししたいと思います。

目次

AIに頼った裁判の書面が通らない5つの理由

AIチャットで裁判の書面を作成しようとする画面のイメージ

これだけAIが優秀になると、何十万円もかかる弁護士費用を節約して、月額なんぼのAIを利用して法的な紛争に臨む方が出てくるのは時間の問題でした。

そして、私が見聞きする限り、「この主張をすれば勝てる」、「こういう証拠があれば勝てる」というような法的に勝ち負けがはっきりしている裁判で、一般の方がAIを上手く使って弁護士相手に勝ちを得ている事例は確かにあります。

しかし、弁護士でない一般の方が、AIを弁護士の代わりにして裁判に臨むことは、以下のとおり危険です。

実際に、相手方がAIを使ったと思われる裁判で、完全に争点を外してしまったあさっての主張がされ、AIを使わなかった別の事件の相手方と比べても、かえって不利な結果になってしまったことがありました。

弁護士 おがわ

AIを使ったことが、むしろ悪手になってしまったのです。

では、なぜこれほど成長したAIを使って勝ちを掴めないのでしょうか。

長文の読解と書面作成の力は、まだ完璧ではない

AIはたしかに優秀になりました。

しかし、この記事を執筆した令和8年(2026年)9月時点では、まだまだ長文の読解に際して、その膨大な文字の海から法的に勝敗を分け得る小さな事実を見落とさずに拾い上げる能力は完璧ではありません。

弁護士 おがわ

また文章作成についても、争点が複雑になると的を射ない文章や致命的なミスを含む文章を作成することがあり、令和8年9月時点のAIの書面作成能力もとても完ぺきとは言えません。

裁判で長文の正確な読解と文書作成はほとんど必須ですので、長文や文書作成に対応する能力が完璧とはいえない現時点のAIを裁判で漫然と用いることは、勝敗を分けるミスにつながると言わざるを得ません。

AIは事件を見立てられず、「戦略」を持たない

「AIの『満点回答』では勝てない理由」の記事でもお示ししたとおり、弁護士は、ご相談をお受けした時、終局までの地図を頭の中に描き始めます。

そしていざ受任した後は都度修正しながらも、法律内外の戦術を積み重ねて、ゴールに辿り着きます。

時々SNSで、アーティストがキャンバスになんだか分からないものを筆で乱雑に描き始めたのに、筆が進むと精緻な絵画が完成してしまう動画があります。

まるで魔法のように感じますが、これまで何百枚、何千枚と絵を描き続けてきたアーティストの頭の中には、描きたい絵のイメージがあり、技術とは、これを現実のキャンバスに映しだすための道具に過ぎないのでしょう。

弁護士もこれに似ています。

しかし、AIは、裁判の経験がありませんから、事件を見立てられず、この戦略も戦術もありません。

ただただ正しい法律論を都度都度生成するだけです。

弁護士 おがわ

ここは何としても取りにいく、ここは小さいからあえて捨てるという判断も、執筆時点ではできないでしょう。

これでは大局を戦略的に見極め、様々な戦術で細部を詰めていくというたたかいの基本を守って裁判をすることは難しいでしょう。

AIは教科書どおりのたたかいしかできない

教科書どおりにはいかない裁判の駆け引きを表すらせん階段

AIの提供する情報、作る書面はとても教科書的です。

しかし、法的な紛争では、権謀術数のたたかいを仕掛けられることがあり、これに対応できなければ負けてしまいます。

教科書に書いていない戦術は山ほどあります。

たとえば、ボクシングには、あたかも相手の作戦が分かっているかのように仄めかして動揺を誘う試合前の駆け引きや、相手の顔やお腹でなく肩を狙ってパンチを連打して攻撃力を奪う戦い方があります。教科書には書いていないけれど、もちろんルールに反しているわけではない戦術です。

それと同じように、裁判にも教科書に書いてある戦術以外の様々な戦術があるのです。

裁判は相手の心理まで見通して駆け引きを行うたたかいの場です。

もちろん違法、不当な手段は絶対に許されませんが、心理的な駆け引きすらできない相手に、裁判経験が豊富な弁護士が負ける心配はあまりないように思います。

ハルシネーション(もっともらしい誤り)はなくなっていない

少なくとも、この記事を執筆した令和8年(2026年)9月時点で、AIがありもしない情報を真実かのように回答してしまう「ハルシネーション」はなくなっていません。

「膨大なテキストデータの中からパターンや統計的な確率を計算し、入力された言葉に対して、次に続く言葉は何が最も自然かを数学的に予測して文章を組み立てる」というAIの特性上、つまりは人間と同じように「理解をして回答をしている」というわけではない以上、ハルシネーションが完全になくなるにはまだ時を要するのかもしれません。

しかし、法律という難解な専門分野に関するAIの回答について、一般の利用者の方が的確に判断して、その真偽を判断することはとても難しいことです。

このそもそもAIの回答が間違っている危険があるというハルシネーションは、一般の方がAIを裁判で利用する際の大きな課題の一つと言わざるを得ません。

最大の壁は、利用者が法律上重要な事実をAIに伝えられないこと

AI利用者が法律上重要な事実を伝えられないという大きな壁のイメージ

上記の問題のなかには、AIの成長により解消されるものもあるでしょう。

AIが弁護士と同じように事件を見立て終局までの絵図を描くことは、しばらくは簡単ではないでしょう。また教科書に書いていない駆け引きを思いつくということももう数年は先になるかもしれません。

しかし、長文の読解力・文章作成力やハルシネーションはそれこそアップデートされる度に改善するでしょう。

ただ、AIは自律性がない道具です。そうであれば、その道具を用いる利用者の方の能力の限界こそが、AIを利用した裁判を難しいものとするのです。

すなわち、裁判は法律に事実を当てはめて結論を出しますので、当然、法律を知らないと、自身の求める法律効果を得るために、どの事実が重要になるかが分かりません。

そして現在の多くのAIは、こちらの質問に回答する仕様で出力がされます。

そうすると、法律を知らず、どのような事実が法律上重要になるか分からない利用者の方が、AIに、

  • 法律上重要である事実を伝えず
  • そうでない事実を伝えてしまうこと

が当然起こります。

その結果、AIが①法律上重要な事実が存在することを知らずに回答をしてしまうことになりかねず、その裁判についての正しい回答が得られない可能性が出てきます。

これはとても致命的で、現在裁判の中で散見される一般の方がAIを扱い切れていない事例の多くが、問題となっている法律における事実の重要性を間違ってAIに入力した結果、AIがあさっての主張をしてしまっていると思しき事例です。

たとえば、甲という法律の効力を得るには、Aという事実(法律上必要な事実)が必要だとします。そして、本件ではAという事実は存在し、その証拠もあるとします。

しかし、甲という法律を十分に知らないAI利用者は、自身が不満に思ったBという事実(利用者がこだわった事実)に拘ってしまい、AIにはAという事実が存在することを入力せず、ただただBという事実を強調して入力します。

その結果、AIは、Bという事実を使って何とかそれらしく見せた主張を作ります。

これを見た利用者は満足して意気揚々とAIが作ってくれた書類を提出しますが、結局、法的には何の意味もない文章の羅列に過ぎず、弁護士や裁判官を呆れさせてしまうということがあるのです。

弁護士 おがわ

このように裁判が法律を事実に適用して結論を出すものであることから、法律を十分に知らない利用者が、法律上重要な事実をAIに伝えられず、AIから有意な回答を得られないという事態がしばしば起こるのです。

これは、人格を持たず自律的に行動しない「道具」であるAIを、専門知識をもっていない利用者の方が十分に使いこなせないという根本的な問題であり、AIの成長に伴う解消が他よりも難しいのではないかと思わざるを得ません。

調停では、AI頼みの危うさがさらに大きくなる

調停では上記の傾向は、さらに強くなります。

なぜなら、調停では、訴訟のように提出書面や証拠でかなりの部分が決まるものではなく、調停での数時間に及ぶ話し合いでその方向性が決まっていくからです。

そうすると、法律を理解していない利用者からすれば、話し合いの経過を十分にAIに伝えることが難しくなり、AIに事実に加え、調停での審理の経過すら正しく伝わらない事態になりかねず、AIがさらにあさってのアドバイスや書類を出力してしまうのです。

AIは賢者ではなく、最強の「道具」

人の指示どおりに動く「道具」としてのAIのイメージ

AIは、人の言葉を流暢に話し、まるで心があるように会話し、膨大な知識があるうえ、凄まじいまでの速度で成長を続けます。

だから、いつの間にか、まるで知を極めた賢者の仲間を得たかのように錯覚してしまうことがあります。

しかし、それは違うのでしょう。

弁護士 おがわ

AIは、「道具」なのだと思います。

たとえば農具、画材、調理器具、車、書籍などなど人がこれまで発明し利用して生活を便利にしてきた無数にある道具と同じものなのだと思います。

そして、道具をうまく使うには知識と技術が必要です。

農具があっても知識と技術がなければ作物は育ちません。
画材があるから誰でも素晴らしい絵が描けるわけではありません。

あなたの法律の問題を解決できる書籍があっても、法律の知識がなければそれを見つけ出して裁判の場で正しく主張していくことなどできません。

そして道具は使い方を間違えれば、自身に害を及ぼすことすらあります。

現実に、AIに書かせた主張が全く通らず、困惑し、結局当初できたはずの主張をせずに不本意な結果を突きつけられた利用者はいます。

弁護士をたてずAIを利用して法的な紛争に臨む方と対峙するとき、私が怖いと感じることはありません。

実戦の経験でも、AIという道具の使い方でも、積み重ねてきたものがあるからです。

AIを利用して裁判に挑もうとされる方は、AIの言をまるごと信じるのでなく、あくまで道具であることを確認して、これを扱える知識を習得しなければ、納得のいかない負けを突きつけられかねないのです。

まとめ|裁判・調停では、AIを「道具」として扱える専門家の力を

ここまでお話ししてきたように、AIは目覚ましい進化を遂げており、弁護士費用を節約したいというお気持ちから頼りたくなるのはごく自然なことです。

しかし、弁護士の代わりとして一般の方が裁判や調停でそのままAIに頼り切ることは、現時点ではリスクがあると言わざるを得ません。

読解力の限界やハルシネーションといったAI自身の技術的な課題もさることながら、最大の壁は「戦略性の欠如」と「利用者の方の法的知識の限界」にあります。

裁判や調停という「生きたたたかい」の場において、大局を見据えた駆け引きを行うことや、無数にある事実の中から法律上本当に重要な要素だけを見極めてAIに指示を出すことは、実務経験を持つ専門家でなければ困難です。

AIは、どんなに優秀であっても、決して心を持った魔法使いではなく、一つの「道具」に過ぎません。

優れた農具や画材がそうであるように、それを使いこなす正しい知識と技術がなければ、勝訴や有利な解決という望んでいた結果を得ることはできず、かえってご自身を不利な状況に追い込んでしまう危険すらあります。

人生の大切な局面である裁判においては、道具に振り回されるのではなく、専門家の知見をもって適切に状況を見極めることが不可欠なのです。

溝の口テラス法律事務所では、開業まもなくAIを利用しはじめ、その有用性から危険性に至るまで検証し、今ではAIを事務所の強力な武器のひとつとして磨き上げてきました。

弁護士 おがわ

AIで調べてみたけれど、このまま進めてよいか不安だという方も、どうぞいつでもご相談ください。

この記事が、AIを使って裁判や調停に臨もうか迷っておられる方の参考になれば幸いです。

  • これって弁護士に頼んだほうがいいのかな?
  • 相談していいレベルなのかどうかわからない
  • どうしたらいいかアドバイスがほしい

このようにお悩みの方も、まずは溝の口テラス法律事務所へお気軽にお問い合わせください。

溝の口以外の、たまプラーザ、武蔵小杉、二子玉川にお住まいの方のご相談実績も豊富です。

※本記事は、令和8年9月時点のAIの性能を前提にした弁護士の見解であり、これらの変化に伴い弁護士の見解もアップデートされる可能性があることをご了解ください。

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