こんにちは。武蔵小杉、たまプラーザ、二子玉川からほど近い溝の口テラス法律事務所の代表弁護士、小川です。
調停は、弁護士をつけずとも、法律の考え方さえ学んでしまえば、ご自分でもたたかっていけるとお考えの方もいらっしゃると思います。ご自身で法律をしっかり勉強されている、いわゆる頭の良い「デキる人」ほど、そう思うのではないでしょうか。
しかし実は調停で、弁護士からすればとてもたたかいやすい、相手方からすれば弁護士にコテンパンにやられてしまうタイプの方が、頭の良い方、「デキる方」なのです。
今回は、なぜ頭の良い方、デキる人の方が弁護士にとってたたかいやすいのか。
そして頭の良い方、デキる人の方が損をしかねないという調停の特徴をお伝えできればと思います。
デキる人が調停で不利になる3つの理由
離婚や遺産分割などの調停の種類を問わず、調停で、相手方が弁護士をつけないことがあります。
そのとき、弁護士からすればとてもたたかいやすい、相手方からすれば弁護士にコテンパンにやられてしまうタイプの相手方がいます。
それは頭の良い方、「デキる方」です。
普通に考えると、頭が良い方がいいに決まっていると思われるでしょう。
なぜ、デキる人が調停で不利になることがあるのでしょうか。
その理由のうち代表的なものは、次の①から③と思います。
- デキる人は、えてして理屈を理解してしまい、理屈の筋が通っていれば納得してしまうから
- デキる人は先が見えてしまい早期に妥当な解決案を提案できるから
- デキる人ほど難しい議論を理解してしまい、本筋を見失ってしまいかねないから
それぞれを詳しく解説していきます。
デキる人は理屈を理解してしまうから
デキる人の多くは、感情に流されず、理屈で物事を解決できます。
これはもちろんお示しするまでもなく社会ではとても大切にされる重要な能力といえるでしょう。
そしてデキる人ほど、理屈を示されたとき、感情を抑え込み、それを理解しようとしますので納得してしまいやすいのです。
この「理屈が理解できる」という優れた能力は、相手の弁護士からすれば、自分が調べたり、苦心してつくったりした主張を理解してくれるのですから、たたかいやすいことこの上ないわけです。
最後のところで人は理屈では自分を完全には納得させられません。
その時、納得した気になっても時が経って後悔することがあるのです。
また、これと関係して、調停委員はもちろん調停を合意に導くことが仕事ですので、なんとか合意できるよう当事者を説得することもありますが、当然、説得は、理屈と話がわかる人にしか通じません。
そこで調停委員の中には、頑として自分の意見を変えず譲歩の意思を見せない感情的だったり頑固に過ぎる人より、きちんと話が通じるデキる人の説得を試みる人もいるかもしれません。
そして、やはりデキる人ほど、調停委員の説得が筋の通ったものであれば、たとえば、「これ以上続けるより、こんな悪縁は切った方がいい」とか「ここで損になるお金はあなたならすぐ取り戻せる、時間がもったいない」とか、実際にもっともといえる部分がある説得であれば応じてしまうことが多いのです。
たとえばボクシングでも、強者にしか通じないフェイントや戦術があり、それがために強者が早いラウンドで負けてしまうことがあるように、秀でていることは勝てることに直結せず、むしろ秀でているがために大負けしてしまうことがあり得るのです。
デキる方は先が見えてしまい早期に妥当な解決案を提案できるから
デキる方は、自分の主張に拘泥せず(こだわらず)、落とし所を見つけ、これを相手に示せることが多いです。
お示しするまでもなく、社会では、速やかな問題解決や現実的なプロジェクトの策定のため、早期にこの落とし所を見つけて関係者に示すことができる能力はとても大事です。
しかし、調停では、これは危険な時があるのです。
なぜなら、はじめに示した落とし所が、条件の最低ラインになってしまいかねないからです。
一度相手に示した条件は、特に感情的になっている相手には、最低でもそこまでは譲歩できるのだと誤解させかねません。
そして、前提が変わっても、相手の中には提示された条件は残り続け、あの時ああ言ったのだからもう少し譲歩できるはずだと言われかねないのです。
そこで、落し所が見えてしまっても、それを直ぐに相手に示すことはせず、戦略的な主張をしていくべき場合も多くあるのです。
できるはずのことを、あえて戦略的にしないことも重要になってきます。
デキる人ほど難しい議論を理解してしまい、本筋を見失ってしまいかねないから
法律の議論は複雑で様々な争点があり、その争点が事実関係に応じて細かに枝分かれします。
デキる人は、法律事務所のサイトなどを熟読し理解して調停に臨むことが多いでしょう。
しかし、調停は陣取りゲームのような側面があり、主要な争点で勝つことが大事です。
デキる人の中には、理解できるがゆえに複雑で難解な、しかし細部でしかない争点にとらわれ本筋を見失った議論に迷い込んでしまう方も多くいるのです(これは新人の弁護士にもよくあることで、新人の弁護士もまた優秀であるものの、その経験の少なさゆえに、難解な論点に取り組んでいるうちにいつの間にかその裁判での重要度を忘れて傾倒しバランスの悪い主張をしてしまうことがあるのです。)。
一見してデキる人とわかる、ご自身で調停に挑まれ中途から相談に来られる多くの方が、負けてはいけない争点を見損じ大きな損をしてしまっていることに気付かずに、ごくごく小さな争点についての多数の非常に高度なご質問をご準備してきてしまうのです。
調停に慣れた弁護士であれば、早期に調停をまとめるため、あえてこちらの損の小さい争点は退き相手に花を持たせ交渉をスムーズにすることすらあります。
調停は法的紛争に決着をつける場です。
たとえば、プロのバスケットボールの試合で残り時間十数秒で1点負けているチームが、ギリギリまでシュートをうたず自軍逆転後の相手の反撃の時間を潰す作戦が合理的であるように、一見して好手とは分からない合理的な戦術が調停にも数えきれないほどあるのです。
しかし、どんなに運動神経の良いスポーツマンであってもバスケットボールの初心者であれば、試合中にそのような判断をすることは簡単ではないでしょう。同じように、どれだけ社会で活躍しているデキる人であっても調停中に合理的な戦術をとれるとは限らないのです。
こちらが調停で勝利するためには、審理の全体像と終結までの道筋を描くことが必要になりますが、これは細部まで見えていることを前提に、数多の調停の経験を経てはじめて得られる能力なのだと私は思います。
デキる人が弁護士なしで調停に挑むときに大切なこと
では、デキる人が弁護士なしで調停に挑む場合、どのような点に気をつければよいのでしょうか。
まず、㋐相手からもっともらしい理屈を示されたときは必ずそのような判例があるのか通説なのか、それ以外に取れる考え方はないのか調査してください。
また、㋑簡単に落とし所を示してしまわず、まずは、こちらが法的にできる主張をしていくべきでしょう。
さらに㋒調停の全体像を描き、各々の争点をたたかい続けた時に得られる利益と不利益を考え、注力すべき争点を決めて議論に臨むことが必要です。
加えて、㋓上記の注意点すら時と場合によって臨機応変に変更して対応することが必要です(たとえば、ある争点についての相手の主張が実務で主流の考え方となっておりこれを変えることが難しい場面であるのに、納得できないとして少数説を引き合いに出して反論を続けてしまえば、調停委員に頑固者との印象を持たれてしまいかねないときがあるでしょう。臨機応変な変更をできず㋐㋑㋒を貫こうとすれば、かえって不利になることもあるのです。)。
調停の場には、あなたの弁護士以外は、あなたの味方になってくれる人はいないのです。
そして、関連する争点は網羅して理解しながらも、あなたが譲れない点を主軸にして終結までの絵図を描かなければいけません。
弁護士をつけない戦いがどれほど不利になり得るか、ご理解いただけたと思います。
まとめ
今回は、デキる人ほど弁護士なしの調停では苦戦を強いられやすい理由を解説してきました。
私は3桁の調停事件に携わってきましたが、未だに書籍を開き、検討した対応策を何度も頭の中で反芻しては修正し、本番で臨機応変に対応することを繰り返しています。
どんなに、身体能力が高い人でも、はじめて体験したスポーツで、そのスポーツのプロに勝てないことと同様、どんなにデキる人でも調停でたたかい続けた弁護士には勝てないと私は思います。
スポーツ競技が単に身体能力を競うものではなく「ルールに則り、テクニックと経験を活かして」競うものであると同様に、調停も頭の回転の速さではなく「法律を念頭において、調停のためのテクニックと経験を活かして」たたかう場だからです。
もし、ご自身で調停をたたかい抜かれることに不安を感じたら、ぜひ弁護士への相談を検討してみてください。
溝の口テラス法律事務所は、いつでもあなたのご相談をお待ちしています。
- これって弁護士に頼んだほうがいいのかな?
- 相談していいレベルなのかどうかわからない
- どうしたらいいかアドバイスがほしい
このようにお悩みの方も、まずは溝の口テラス法律事務所へお気軽にお問い合わせください。
溝の口以外の、たまプラーザ、武蔵小杉、二子玉川にお住まいの方のご相談実績も豊富です。